1804年創業の上越酒造は、2021年8月に事業を承継した。その後に造り始めたのが、アルコール度数8%、日本酒度が-40を超える純米大吟醸「甘雫(あましずく)」だ。女性だけが審査員を務める美酒コンクールのロウ・アルコール部門で金賞、IWC(インターナショナル・ワイン・チャレンジ)でブロンズ。公式オンラインショップは、2026年9月現在、売り切れになっている。それでも「市内でも取り扱っていただいているお店が多くない」と海老原勲さんは言う。賞と売り切れの先で、蔵は何をしているのか。

上越酒造は1944年、戦時中に酒造りを中断し、1956年に株式会社として再開した蔵だ。2021年、事業譲渡により日本トーター株式会社の子会社となる。同社は自社サイトに「まったくの門外漢の業種でありながら、この200年以上の伝統がある酒蔵を継承する決意をいたしました」と記し、酒造りの根本は杜氏である先代社長からの直伝で受け継ぐとしている。翌2022年、新設備での酒造りが始まった。

上越酒造の正面。白壁の建物に「上越酒造」の看板と「越後美人」の暖簾
上越酒造(新潟県上越市飯田)。文化元年(1804年)創業(写真提供: 上越酒造株式会社)

越後美人 純米大吟醸「甘雫」

原料米
新潟県産 越淡麗 100%
精米歩合
50%
アルコール度数
8度
日本酒度
-46
容量
720ml
受賞
美酒コンクール2024 ロウ・アルコール部門 金賞/IWC 2025 純米大吟醸部門 ブロンズ

※公式サイト商品案内の記載より。日本酒度はマイナスが大きいほど甘口。

きっかけ

――アルコール8%の甘口という、日本酒としては珍しい酒です。造ろうと思ったきっかけは何だったのですか。

「甘雫」は2021年の事業承継後に造り始めたお酒です。

日本酒の国内出荷量は減少し続けていますが、少しでも盛り上げたい。今まで日本酒を飲む機会が無かった方や、日本酒を敬遠されていた方でも楽しめるお酒はできないかと試行錯誤しながら造ったお酒です。日本酒としては低アルコールになっていますので、日本酒を試すきっかけになればと考えています。

飲み方

――かなり甘いのですか。

日本酒としては甘く仕上げています。日本酒の「甘辛濃淡」にあてはめると濃醇甘口になります。乾杯酒や食前酒にされる方が多いのではないかと思います。

――公式サイトには、炭酸で割ってもおいしいとあります。

炭酸、レモン風味の炭酸で割ると、濃厚さがなくなり飲みやすくなります。

公式サイトは甘雫を「梨のようにさっぱりとした甘さで、ジューシーなお酒」と紹介し、食前酒のほか食後のデザート酒として勧めている。

誰が、どうやって

――その甘さは、どうやって出しているのですか。

日本酒はお米のでんぷんをブドウ糖に変え、ブドウ糖からアルコールを生成します。通常であればアルコール度数が15度前後になるまで発酵させますが、「甘雫」はアルコール度数が低い状態、つまりブドウ糖が多いときに搾ることで甘さを引き出しています。

――米は特別なものを使っているのですか。

特別ということではないのですが、越淡麗を使っています。越淡麗は2002年から試験栽培が開始された、比較的新しい酒造好適米で、全て契約栽培です。

――新潟の米へのこだわりがあるのですね。

以前は県外産のお米も使用していましたが、地元にこだわり、新潟県産のお米へ切り替えをすすめ、今年は全て新潟県産のお米を使用しています。特に、山田錦と越淡麗については上越市内の生産者の方と契約し調達しています。

仕込み蔵に積まれた新潟県産酒米の袋。奥にタンクが並ぶ
仕込み蔵に積まれた酒米。奥に並ぶタンクで、季節を問わず仕込む(撮影: 蔵の一手編集部)

――2021年に事業を承継されました。蔵は何が変わったのですか。

事業承継前までは一般的な寒造りをしていましたが、設備を入れ替え、空調設備を整えたことで四季醸造を行っています。また、1回瓶火入れ、その後は低温保管としていることでフレッシュな状態のお酒を提供しています。貯蔵技術はまだまだですが、名誉杜氏として先代社長からもアドバイスをいただきながら、より良いお酒造りを目指しています。

――味は一定に保てるものですか。

担当者の経験や勘に頼らず、数値で管理できる……といいたいところですが、お米はもちろん、麹、酵母の働きは数値通りにはなりません。今は再現性を重視しながら、より良いものを造りながら、データの蓄積と担当者の経験や勘の部分をどれだけ“見える化”できるか挑戦中です。

手応え

事務所の棚に並ぶIWCや美酒コンクールの賞状と商品
事務所の棚に並ぶ賞状。IWCのブロンズ、美酒コンクールの金賞、シンガポールSAKEチャレンジの金賞、ワイングラスでおいしい日本酒アワードの金賞(撮影: 蔵の一手編集部)

受賞は続いている。2023年、シンガポールSAKEチャレンジで「古酒」が金賞。2024年の第2回美酒コンクール(福井・北陸大会)では、甘雫がロウ・アルコール部門の金賞を取った。女性だけが審査員を務めるコンクールだ。2025年のIWCでは、「越後美人 古酒H16BY」がゴールドに加えて新潟古酒トロフィーを獲得。純米大吟醸部門で「甘雫」、普通酒部門で「越後美人 貴醸酒」、熟成酒部門で「越後美人 花 1年氷温」がそれぞれブロンズ。同じ2025年、ワイングラスでおいしい日本酒アワードのプレミアム純米部門で「越の若竹 純米吟醸 Prova」が金賞を取った。承継から5年、賞の階段を上ってきた。

――IWCと美酒コンクールで受賞されました。認知は広がりましたか。

受賞することである程度認知頂いたとは思いますが、まだまだです。お取扱い頂いているお店が上越市内でも少ないため、市内の方にも「どこにある蔵ですか」と聞かれることがあります。受賞は非常にありがたいことですし、励みにもなりますが、やはりお客様に納得して頂いてお買い求めいただける試飲販売会を通して認知頂ければと考えています。

――公式ショップでは売り切れになっています。

越後美人「甘雫」はおかげさまで当初の予定以上に受注が重なり、一時的に公式ショップでのお取り扱いを停止させて頂いております。現在、予定を前倒しして醸造しています。実店舗向けの在庫は一定量ありますので、当社店頭、またはお取扱い頂いている酒店さまにお問い合わせいただければと思います。

次の甘雫は、2026年9月下旬に出る予定だ。

これから

――甘雫の次は、何を考えていますか。

「越後美人 純米大吟醸酒 甘雫」とともに、ボリュームゾーンの「越後美人 純米酒」「越後美人 純米吟醸酒」「越の若竹 純米酒(+10→)」の4種の改良を継続して行うとともに、認知度向上に注力していきたいと思っています。一方で、「甘雫」に続く上越酒造ならではの新酒開発を計画しています。既存のお酒は濃醇なものが多いので、1種類くらいは淡麗なものを取り揃えたいと考えています。

上越酒造は自社サイトで、「上越の人は『遠慮深い』『押しが足りない』などとよく言われますが、上越酒造のお酒もまさにそんなようなお酒です」と書いている。個性は強くないが、やさしい味、柔らかい飲み口が特長だという。昔から涸れることのない井戸水がその味の元だ。甘雫は、その蔵が承継後に打った最初の一手だ。

上越酒造株式会社
新潟県上越市飯田508/創業1804年/代表銘柄「越後美人」「越の若竹」/2021年、事業譲渡により日本トーター株式会社の子会社に。2022年、新設備での酒造りを開始
公式サイト: joetsu-shuzo.com/オンラインショップ: joetsu-shuzo.shop
※本記事は取材先の確認を経て公開しています。

編集後記
取材の6日後、上越の蔵を訪ねた。原稿の印刷に赤を入れてもらいながら、賞状の並ぶ事務所で話を聞いた。日本酒度の数字は仕込みごとに揺れる。賞は正式な表記で。同業者が最初に読む、という前提の直しだった。次の甘雫は9月下旬に出る。(編集部)